クリームパン

Thursday, April 13, 2006

懇意

だが、ここでさえも、私が紳士としての身分からまったく堕落して、職業的の賭博者(とばくしゃ)の陋劣(ろうれつ)きわまる手管(てくだ)を覚えこもうとし、また、その卑劣な術策の達人になってからは、いつもそれを実行して、仲間の学生たちのなかの愚鈍な連中から金をまき上げて、そうでなくとも莫大(ばくだい)な収入をいやが上にも増す手段としていた、ということはとても信じられないであろう。けれども、事実はそうだったのだ。そして、あらゆる立派な正しい情操に反するこの罪科のあまりに大きいというそのことが、疑いもなく、それが行われながら罰せられなかったことの唯一(ゆいいつ)のではなくとも主要な理由となったのだった。実際、私の放縦な仲間たちのなかで、あの快活な、率直な、寛大なウィリアム・ウィルスン――オックスフォードでもいちばん高潔でいちばん気前のいいあの自費生――彼の乱行は青年の放肆(ほうし)な空想のさせる乱行にすぎず――彼の過失はまねのできぬ気まぐれにすぎず――彼のいちばん暗い悪徳も無頓着(むとんじゃく)な血気にまかせてする放蕩にすぎない(と彼の取巻き連の言う)あのウィリアム・ウィルスン――がそういうようなことをしようと疑うよりは、むしろ自分の気が確かかどうかを問題にしようとしない者がいたろうか? もうはや二年もそんなふうにして私はいつも首尾よくやってきたが、そのころ、その大学へ、グレンディニングという若い成金(なりきん)の貴族――人の噂(うわさ)によるとヘロオデス・アッティクス(9)のような金持で――また彼の富はそのようにたやすく手に入れたものだそうであった――が、入ってきた。私にはすぐこの男の低能なことがわかったので、もちろん、自分の手練を揮(ふる)うに持って来いの相手として目をつけた。私はたびたび彼と賭博をやり、賭博者のいつもやる策略で、自分の罠(わな)にいっそううまく陥らせるために、彼にかなりの額を勝たせるように仕向けた。とうとう、もう自分の計略が熟してきたので私は彼と仲間の自費生(プレストン君)の部屋で(これを最後の終決的な会合にしてやろうと堅く思いながら)会った。プレストン君というのは二人とも同じく懇意なのであるが、彼のために言っておけば、彼は私の企図(たくらみ)はほんのちょっとばかりも疑っていはしなかったのである。この会合にさらにもっともらしい文(あや)をつけるために、私は八人か十人ばかりの連中が集まるように仕組み、それから骨牌(かるた)がいかにも偶然に持ち出されたように見え、しかも私の目をつけているその阿呆(あほう)自身が言い出して始まるように、よほど気をつけてやったのだった。この陋劣な題目について簡単に言ってしまえば、どうしてまだ一人でもそれにひっかかるほどの愚かな者がいるのかということがまったく不思議なくらいそういうような場合にはいつも決って用いられる、あの卑劣な術策は一つ残らず使ったのだった。

平然

 彼がしゃべっているあいだは、床の上へ針が一本落ちても聞えそうなほど、ひっそりと鎮まりかえっていた。言いおわると、彼はすぐに、また入って来たときのように突如として、行ってしまった。そのときの自分の感じを私は書くことができるだろうか――書かねばならぬだろうか? 私は地獄に落ちた者のあらゆる恐怖を感じたなどと言わねばならないだろうか? たしかに私には考えている暇はほとんどなかった。たくさんの手がすぐに私を乱暴にひっつかみ、明りはまたすぐに持って来られた。つづいて捜索が行われた。私の袖の裏から、エカルテにもっとも肝心なあらゆる絵札が発見され、ラッパーのポケットからは、たくさんの骨牌札が発見された。これは私たちの勝負に使った札とそっくりのもので、ただ一つ違っているのは、私のはその道の言葉で言えばアロンデ(11)という種類のものだった。すなわち、最高札(オナアズ)は上下の縁が少しばかり凸形(とつがた)になっているし、並の札は両横の縁が少しばかり凸形になっているのである。こんなぐあいになっているので、だまされる人は普通のように札を縦に切るものだから、いつも相手に最高札のほうを切ってやるし、だますほうは横に切るから、同様にきっと相手に点になるような札は一枚もつかませないことになるのだ。 このことが露顕したとき、みんなが一時に憤りたててでもくれたなら、それほど私も参らなかったろうが、みんなはただ黙って軽蔑の色を浮べ、または皮肉な様子で平然としていたのだった。「ウィルスン君」と部屋の主人は、体をかがめて、珍しい毛皮のすばらしく贅沢(ぜいたく)な外套を足の下から取り上げながら、言った。「ウィルスン君、これは君の物だよ」(寒い時候だったので、私は自分の室を出るときに、ドレッシング・ラッパーの上へ外套をひっかけてきて、その骨牌をやる部屋へ入ると脱いでおいたのだった)「この上のお手並の証拠を拝見するために、ここを」(と外套の襞(ひだ)のところを苦々しい微笑を浮べて眺(なが)めながら)「捜すのは余計なことだろうと思う。実際、あれだけでもう十分だ。君はオックスフォードを立ち去らねばならないことはわかっているだろうな。――ともかく、僕の部屋からはすぐさまね」